スープ

おばあさんが、ブイヨンスープを作っている。
そのスープは、おばあさんが子供の頃から継ぎ足し継ぎ足しされてきたものだった。
おじいさんが帰ってくる。
いつものように、鞄から"言葉"を取り出して、鍋に加えた。
その"言葉"はおじいさんが東京の街を歩いて集めてきた物だった。
渋谷はいつも人が多くてうんざりだよ、そう言って笑っている。
二人は鍋の見張りを交代する。
おじいさんは鍋を覗き込んだ。
昨日入れた"言葉"、一昨日入れた"言葉"は輪郭が崩れ、ずっと前に入れた"言葉"は溶けて形が見えなくなっていた。
しばらくして、もういい頃合いだろうと、おじいさんはひとさじ"味"を確かめた。
満足そうにうなずく。
溶けかかった"言葉"をおたまで掬って、ノートに盛り付けた。
おじいさんは、詩人だった。
このノートを持って、おじいさんはまた明日も街に出かける。