2012-01-05 消しゴム 小novel 消しゴムが一つ、立ち尽くしていた。 まっさらな紙を目の前にして。 消しゴムはまだ新品だった。 角はまだ8つある。 紙に角を擦り付けようとしていた。 消しゴムの生涯で最初の仕事。 この紙に、せめて字の一文字ぐらい書いてあればなあ、 それを消すのが言い訳になったのに。 消しゴムは迷っていた。 後戻りはできない。 削れて削れて、灰色の丸い塊になるのだろう。 始まりが怖かった。 始まってしまうのが、怖かった。