消しゴム

消しゴムが一つ、立ち尽くしていた。
まっさらな紙を目の前にして。
消しゴムはまだ新品だった。
角はまだ8つある。
紙に角を擦り付けようとしていた。
消しゴムの生涯で最初の仕事。
この紙に、せめて字の一文字ぐらい書いてあればなあ、
それを消すのが言い訳になったのに。
消しゴムは迷っていた。
後戻りはできない。
削れて削れて、灰色の丸い塊になるのだろう。
始まりが怖かった。
始まってしまうのが、怖かった。