上北沢アシンメトリー

なぜか今日は、世界の左右が逆さまになっているような気がする。
改札を通ってホームに降りようとしたとき、階段がいつもと違う位置についていた。
その横のエスカレーターでは、みんな右側に立っている。
あれ?大阪に帰ってきたんだっけ?
一面しかないのホームの、両側を行き来している電車に目をやった。
見えたのは阪急電車の小豆色ではなく、京王線のアイボリーだった。
べつに天地がひっくりかえった訳じゃない。
まったく些細なことだった。
宇宙をそっくり鏡移しにしても、大切なことは何も変わらない。
物理の法則ではたしかそうだったはずだ。
地球の自転が時計回りか反時計回りかは覚えていない。
けれども、どちらにせよ夜は、ハワイから日本を越え、中国に向かって明けていくのだろう。
世界は何も矛盾なく運動を続けていて、違和感を感じているのは自分だけだった。
目を瞑った。
自分が一人取り残されたみたいで、とても寂しかった。
しばらくして目を開けると、世界の左右は元に戻っていた。
急行電車が前からやって来て、僕の右側を通過して行った。
ペパーミントのタブレットを口に入れると、l-メントールの味がきちんと爽やかだった。